愛別離苦

今日は、ちょっとばかり暗めの設定をお話ししたく存じます。
こういうことについて語るとたぶん「じゃあ、それで何か小説を!」と仰る向きもあろうかとは思いますが、ごめんなさい、38は真面目なストーリーは組み立てられませんので、ここで語るのみでご勘弁下さい。というか、これを読んで、何かしらの感慨を得ていただけましたらば、是非是非、マンガなり小説なりにしたためて、38に読ませてやって下さい。38はパクリ大歓迎な人なので。(おいおい、なんて他力本願な……。物書きとしてそれってどうよ、一体)


では、本題に参りましょう。
今回のお題は「死別」について。

盟友で「死別」といえば、言わずもがな。ドミノ作戦でございますね。
この出来事を避けては盟友は語れないと言うくらい、この作戦は要のエピソードです。
みんながみんなそうだというわけではないと思いますが、多くの盟友ファンの物書きの方々は、その大凡が「ドミノ作戦」のストーリーをお描きになっていらっしゃるようです。
きっと、これは通過儀礼のようなものなんでしょうね。
かく言うワタクシめも、プリズミックスマイル様にドミノモドキな駄文を進呈させていただいた過去がございます。
ご興味のある方はそちらの宝物殿へどうぞ。
と申しますか、これからしたためる「語り」は、38のドミノモドキ「闇に潜む真理」をお読み下さった方へという形になろうかと思いますので、ご了承下さいませ。(不親切だなー)

「闇に潜む真理」は前述でも申しましたとおり、モドキ小説です。
なにゆえ「モドキ」と称しますかと言いますと、「ドミノ作戦」そのものではないからなのですね。
つまりドミノのその後のストーリーに位置するわけです。
「その後」と言うからには、ドミノそのものも私の中には確かにあるわけで……。それについてを今日は語りたいのです。

眩惑のセルバンテスはドミノ作戦に於いて殉職してしまうのですが、さて、この時、衝撃のアルベルトは泣くのでしょうか? みなさんはどのようにお考えですか?
ワタクシ、ムスタング☆38は泣かないと考えております。
いえ、違います。「泣かない」では語弊がありますね。「泣けない」あるいは「泣けなかった」と考えているのです。
公式設定としてはどうなっているのかは存じませんが、38的衝撃のアルベルトは、間違いなく眩惑のセルバンテスを愛しています。
何故とか何処をなどは説明出来ませんが、私としてはごく当たり前に本当にナチュラルに「愛している」と感じているので、その説明は置くことにします。
で、それを前提に考えるならば、愛しい者と死別する際、泣かないというのは不自然です。
でも、「泣かない」のではなく「泣けなかった」のだとしたら……。これは自分で言うのも何ですが、かなり萌えな状態ではないでしょうか。
では、なぜ、泣けなかったのか。それをご説明したいと存じます。

ドミノ作戦遂行中、またはその終了後、衝撃のアルベルトは目の前で、盟友、眩惑のセルバンテスの命をを神行太保戴宗の手によって奪われてしまいます。
殺された瞬間のことは「闇に潜む真理」に少しだけ描きましたので割愛します。
さて、友を奪われたそのとき、衝撃のアルベルトは涙を見せませんでした。
むろん、心中は穏やかではありません。
自分より能力は劣るとはいうものの仮にも十傑集であるはずの盟友が、たかだか国警の雑兵の一人に過ぎない神行太保ごときに敗れるとは思っても見なかったのですから。
補足させていただきますと、アルベルトはこのときはまだ、戴宗の本当の力を知りません。ドミノ以前にも戴宗とは何度も手合わせをしてはいましたし、戴宗と闘うときは、他の誰と闘うときより楽しかったことも事実ではありますが、それでもアルベルトは全力では闘ってはいなかったのです。フルパワーで闘ったら戴宗を殺してしまうと思っていたので、力は絞り気味にしていました。ところが、アルベルトは気づいていませんでしたが、実は、戴宗の方も力を絞っていたのです。アルベルトとほぼ同様の理由から。従ってアルベルトは戴宗を下っ端よりは骨がある程度にしか認識していませんでした。
にも関わらず、セルバンテスは殺されてしまった。
その事実は、アルベルトに哀しみよりも怒りを強く抱かせました。
無二の友に敗北と絶命という屈辱をあたえた男に対して、また、そいつがそれほどの力を有していたと気づかなかった自分に対して。
死別によって訪れた深い哀しみを心の奥に押しやってあまりあるほどの怒り。
それを抱かせた漢をなんとしてでも仕留めなくてはなりません。今自分に課せられた使命はそれだけだと、弔いはそれを果たしてからだとアルベルトは思いました。
そしてアルベルトは、全力、もしくはそれ以上の力で神行太保に挑みかかりました。今度は間違いなく殺すつもりで。
二人は初めて、全開のパワーでぶつかり合ったのです。
それはアルベルトに変化をもたらしました。
最初のうちは「友の仇」の気持ちが強かったのに、拳を交えるうちにそれを忘れてしまうのです。
神にも等しい力と力の攻防は、かつて感じたことのない快楽をアルベルトにもたらしました。
今までもアルベルトにとって戦闘は「何よりも愉しい行為」であったけれど、そんなものはもう、子供のお遊戯でしかなかったと思えるくらい、この闘いは快感。
死と隣り合わせのタナトスが彼のエロスを刺激したのかもしれません。
彼は夢中になりました。何もかも忘れ溺れるほどに。
セルバンテスが存命していれば、目を離すことが出来ないくらい、この時の彼は強く美しくそして艶めかしかったことでしょう。
しかし──
戴宗の方が一枚上手でした。
むろん、戴宗にしても、愛しい(38的には戴宗の方が楊志に惚れている設定です)楊志を体が青く変わってしまうほど酷い目に遭わされているのです。アルベルト以上に怒りを感じてはいたでしょう。けれども彼は自由人のアルベルトとは違いお役人という立場がある人です。自分の感情よりも任務を優先出来る人でした。
けしてアルベルトが戴宗に劣っていたというわけではなく、闘いの中での冷静さに於いて遅れを取ってしまったのです。
そしてとうとうアルベルトは右目を奪われてしまいます。
ですが、とどめを刺すには至りませんでした。
それはアルベルトがそれほど強かったからか、戴宗に撤収命令が下ったからか、あるいはそのどちらもであったかは定かではありませんが。
首の皮一枚で繋がった互いの命。
自分を屠らなかった漢の去っていく背を残った左目に捕らえながら、アルベルトは意識を失いました。
そうしてそのままBF団の病院へかつぎ込まれ、右目の緊急手術を施されます。たぶん、義眼は本人の承諾なく移植されたのでしょう。悪の秘密結社ですから、開発中の人工臓器のモルモットよろしく。
彼が意識を取り戻したときには、作戦からは一週間も過ぎた後でした。
おかげさまでアルベルトは、セルバンテスの葬儀に参列することも出来ませんでした。
だから、彼のセルバンテスとの最後の記憶は絶命する瞬間しかありません。
神々しいまでの純白の体を己が血潮で真っ赤に染めて腕の中に倒れ込む友。
「さようならだ……アル……ベルト……。とても残念だけれどね……。先に地獄で待っているよ……君は……君はゆっくり……おいで……。愛して……いたよ……」の末期の台詞。
ここで全てが止まっています。
棺の中で安らかに眠る友は彼の記憶の何処にも存在しないのです。
──弔いはそれを果たしてからだ
そう思っていたのに、それは叶えられなかった。
友の仇を討つことも、友と決別することも。
精算することの出来なかった想いは、鈍い痛みを伴いながら彼の胸の奥底に沈みます。
けれどもその痛みは涙を流すほどの激しさを持たず、三ヶ月の長きに渡り彼を苛み続けるのです。
そして物語は「闇に潜む真理」へ──。

そう。結局アルベルトはセルバンテスのために泣いてはくれなかったのです。
涙には浄化作用があると言われています。
泣くことは哀しみを癒し明日を生きていくために必要な作業なのです。
でも、アルベルトはそれを許されなかった。
そればかりではなく、認めることの出来ない新たな感情さえ植え付けられました。盟友を殺すほどの力を持ちながら自分にはとどめを刺さなかった漢によって。
アルベルトはあの時の快楽の虜でした。
あの快感を得られるのであれば何度でも挑んでいくでしょう。
でも、それを認めることは出来ません。
何故なら彼の漢は自分と友に屈辱をあたえた憎むべき相手なのですから。
そんな漢に惹かれているなど認められようはずがない。
だから戴宗はアルベルトにとっては「仇敵」なのです。
仇ならば正当に闘いを申し込むことが出来るのですもの。
「盟友セルバンテスの仇、右目の恨み」
この台詞は言い訳でしょう、きっと。最愛の人間を奪われた局面でそれを忘れ感じた快楽を尚も求める自分を否定するための。
もちろん、公式にはこんな設定ありはしないでしょうが。
ですが、こう考えると、その後のOVA本編での戴宗とのやりとりが、全て納得いく気がするのです。
いやいや、そんなきれい事はうっちゃっておきましょう。
こんなこと考えたのは、その方が萌えだからです。それだけですよ、ええ(きっぱり)
そうさー、どうせアタシは腐女子だよー! 不幸は萌えには欠かせないスパイスさ!!
はっ!? てことは、やっぱり、時代は不幸なしには乗り越えられないのだわ! 草間博士、答え出ましたよ(何か勘違いしています)

オチがついたところで(ついたのか? これで)本日はここまで。
賛同者がいらっしゃると幸い。


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