地獄の沙汰も金次第

本日は「ロボ」界に於ける「お金」について少し語らせていただきたい。

「ジャイアントロボTHE ANIMATION」の劇中にはお金がまったく登場しない。
海外ドラマ「スタートレック」のように、通貨という概念がなくなってしまった世界というわけではけしてないのだろうと思うが、紙幣も貨幣も、小切手も通帳もクレジットカードも出てこなかった。
もっとも、物語の展開上、それらが登場する必然性はなかったのだから、OVAにお金が描かれていないからといって何の問題もないとは思っている。
だからといって、彼らが金に興味のない人種かというと、そうではないと私は思っているのだ。
少なくとも、我が社の社長、眩惑のセルバンテスは、金にはかなり細かいのではないかと認識している。

「ロボ」にハマっている方々が、すべからくそう考えていらっしゃるとは思っていないが、男のロマンを語る上で、金は無用の長物と思われがちなのではないかと私は感じている。
私自身は、世間で思われているほどには、金に対して生臭さを感じてはいない。以前、オフライン用に発表した「ALMIGHTY MANの悲劇」内で社長に語らせたように「どんなにささやかな幸せを買うにもお金は必要」と思っているからだ。
何故今、こんな話を持ち出すのかというと、ネット上で、いろいろなロボファンの方とお知り合いになり、チャットでお話しをさせていただいて、どうも、BF団員は無給で働かされている説が有力なように見受けられたからなのだ。
正直、私は、この説には異を唱えずにはいられない。
これが国際警察機構の面々のことであったなら、私もまだ納得がいった。
彼らは正義の味方(「ロボ」という世界に於いて、このカテゴライズは厳密には正しくはないのだが)であり善の使徒なのだから、金などというもので縛られなくとも任務は果たしてくれるだろうから。
しかし、BF団は違う。
BF団は悪の秘密結社だ。彼らの行っていることが、もしくはBF様の野望の最終地点が、絶対普遍の「悪」とは断定出来ないが、少なくとも世間の目から見れば、間違いなく悪党の集団なのだ。
公衆道徳や倫理、法律等を順守する善人とは違い、彼らにはそれらを守らねばならない義務がない。そんなものを守る価値観があるなら、そもそも悪の秘密結社の人間になどなってはいないだろう。(混世魔王樊瑞氏に関してはその限りではない気もするが……)
むろん、BF団にはBF団の「掟」(小説版では「血の盟約」と記されているらしい)がある。が、それが存在するのには、我々「罪のない人々」と呼ばれる一般人が倫理を重んずるのとは、些か意を異にするだろう。
善人が法を尊守するのは、もちろん刑罰に対する恐怖もありはするだろうが、おおむね、生まれたときから培われた道徳による良心からだ。だが、悪党たちが掟を守るのはそうではない。
では、何のためか。自らの精神の安寧のためである。
悪党はどんなに愛らしい性格を持っている者であっても、所詮、悪党である。己の利益以外に興味のない人間だ。他人のための自己犠牲の精神など持ち合わせてはいない。
そんな者同士の間に無償の信頼関係など成り立ちはしない。
もちろん例外はある。悪とはいえ彼らも人間なのだから、どんなに特殊な能力を有していても、その体には血も汗も涙も流れている。我々善人とは形は違えど「愛」も知っているだろう。だがそれは、己の種別(この場合は「悪党」)を離れた、ごく個人的なつきあいをしている者同士に限ってのことだ。まあ、株式会社スカール的にいうなら盟友がそれに位置する例外ということか。
とにかく、悪党たちは、その種別が持つ性格上、他人を信用することが出来ないのだ。
上も下も右も左も周りのほとんどが敵だと思って良いのではないだろうか。
無条件で信頼出来るのはおそらく自分だけだ。
ちょっと想像してみていただきたい。
そんな四面楚歌な状態で一年三百六十五日、昼も夜も二十四時間生活するというのがどういうことか。
「信頼出来ない」というのは、裏切られる、心を傷つけられるといった、生易しいことではない。彼らは法を守る気の全くない悪党。己の利益のためなら他人の命さえ虫けら以下に考える者ばかりなのだ。いつ寝首を掻かれるか油断ならないという過酷な状態を指す。
これは堪らない。いかに無敵の超能力を誇っていても、気の休まるときがなければ命を縮めることになる。
そしてそれは、何も下々のエージェントや十傑集だけのことではない。組織の頂点に立つBF様にも同じことが言えるのだ。いや、むしろ、トップだからこそ、よりその条件は深刻だと言えるかもしれない。
さて、ここでいよいよ本題の「金」についての言及に戻そう。
つまり、彼らは「安心」を金で買う必要があると私は考えているのだ。
先程、「無条件で信頼出来るのは自分だけ」と言ったが、実は、この世にはもう一つ、善悪関係なく信頼出来るものがある。そう。いわずもがな。「金」である。
「金」を汚らしいものだと感じている人は多いかもしれない。だが、私は「金」そのものには美も醜も善も悪もないと思っている。
「金」は契約を履行する上での道具の一つに過ぎない。人は各々欲しい物が異なっている。そのどんな物にでも交換対応しているのが「金」である。
「欲」のない人間など一人もいない。そしてその「欲」を満たすためには、無形有形の「欲」を問わず、世界のほとんどの国で「金」が必要なのだ。
先程も述べたように「金」には善も悪もない。あるのは価値の上下だけだ。単純に言えば数字が大きくなるほど価値は高く少なくなるほど低い。(国によって通貨単位はまちまちだが、それらはレートで解消されるであろうし、また、最近ではユーロダラーなる便利な物も流通している)
これほどわかりやすい共通言語は他にはないように思う。
これは思想や価値観、善悪の理念に関係なく通用するシステムだ。
こんなに信頼に値する物体もそうはないだろう。
そしてそれを、他人を信用することの出来ない彼らが、無条件に信頼するのもうなずけるというものだ。
「金」に善悪がないということは、突き詰めれば「金」には心がないということにも繋がる。
それが良いのだ。心がなければ当然、「愛」だの「憎しみ」だのとは無縁だ。従って感情による裏切りなどあり得ない。
心がない物を信用する、もっといえば、心がない物しか信用出来ないというのは、非常に哀しいことだ。ごく普通に、他人を信用することを当たり前として生きている我々から見れば、こんなに孤独で不幸なことはないと感じる。
しかし、それは仕方がないことなのだ。彼らは、法や倫理や道徳を守る義務を放棄する代償に、その不幸を背負う道を選んでしまったのだから。
それでも、彼らとて(どんなに強力な超能力を持っていても)脆弱な人間だ。片時も気の抜けない張りつめた精神を維持し続けることは不可能だ。
そのために、その緩和を買うのである。善悪関わりなく、誰もが必要とする「金」で。

長々と小難しいことを並べたが、ここらで結論を述べよう。
十傑集はBF団に「金」で雇われている。これはほぼ間違いがないと思う。
支払い方法が、月給制なのか年俸制なのか、あるいは入団時にのみ支払われる契約金のみなのかはわからない。が、何れにせよ、BF団側から彼らに「金」が支払われていることは、十中八九間違いがないと思うのだ。
我が社の社長は「金」は貰える物ならいくらでも貰ってしまう人だろうが、その盟友、衝撃のアルベルト殿は、もしかしたら「金」には興味なんか全くないかもしれない。彼は大貴族様で、生まれたときから大金持ち。今更「金」など戴かなくても、生活に窮することはおろか、どんな贅沢三昧をしてもお釣りがくるだろうから。
しかし、そんなことは関係ない。
受け取る方が「金」を必要としているかどうかは、この際さしたる問題ではないのだ。
「支払った」という事実があればいい。その事実で契約が成立するのだから。彼らの命と忠誠を「金」と交換するという契約が。
むろん、こんな契約、法的には何の拘束力もない。何度も言ったとおり、悪党は法律は守らないものなのだから。
が、気休めにはなる。気休めでしかないというのが淋しい限りだが、何もしないよりはマシなのだ。
それにこの気休めは法ではない別の拘束力を持っている。
「命」だ。
受け取る方がアルベルト殿のように富豪で、現在とりたてて「金」を必要としていなくても、支払われたものを受け取らなければ、組織の掟を守ることを拒否する意思表明に繋がる。
悪党は他人を信用しないのだから、いかに、受け取り側に純粋な忠誠心や、金銭に換えられない野心があったとしても(いや、野心とか野望があったらなお質が悪いが)、それを雇用主につまびらかにする術がない。だから、「金」の受け取りを拒否すれば、殺されても文句は言えないということになる。そういう拘束力だ。
ようするに金銭の授受によって、お互い「殺されない保障」を取り付けるのだ。
善人同士ではあり得ない理屈だが、常に寝首を掻かれる危機に瀕している悪党同士なら納得のいく理屈ではないだろうか。
そういった理由から、私はBF団員は上から下まで全ての者が金で雇われている説を推奨するのだ。

で、こういう理屈を念頭に置いて、衝撃のアルベルトという人と組織の関係を考えると、なかなかいろいろ一筋縄ではいかないしがらみが存在することに気が付く。
それは、眩惑のセルバンテスをアルベルトの盟友として配したこととも、縺れ合ってくるようにも思えるのだ。
が、それに関しては、また次の機会ということにしたい。
思わせぶりな書きようで申し訳ないが、これを語り出すと、夜が明けそうだからだ。書く方も読む方も。

というわけで、上記のお題に関してはまた次回、別項にて語ることにする。
今回はそれを語る上での前フリ(なげぇ前フリだなー。ほどというものを知れ、38よ)だと思っていただけると幸いである。

では、次回、お会いしましょう。



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