明けの明星。
まだ明け切らぬ空にたったひとつだけ光り輝く星。
金星。
青島の肩越しに見たそれが、何故か不思議に美しく、また孤独に見えた。
「キレイだな……」
ぽつりと独り言のように呟く私を、青島が不思議そうに見つめた。
「あ……金星……」
窓を振り向いて青島も呟く。
「綺麗だけど……なんか淋しそうっスね」
「青島……」
自分と同じことを考えるこの男をたまらなく愛しいと感じる。
気が付くと私は、強く青島を抱きしめていた。
「む、室井さん?」
不意のことに訝しげな声で私を呼ぶ。
「……何にも言うな。しばらくこうしていたい……」
私たちは無言で抱きしめ合った。
金星の側を流星がひとつ尾を引いて流れた。
流れ星は人の魂だとは誰が言った言葉だったろうか。
「魂」がもしも、世界の人口と同じ数だけあるなら、その流星群の中でこの男と巡り会えたことは奇跡に近い。
「……キレイだ……」
金星ではなく、こうして二人で紡ぐ瞬間(とき)が。
そう感じていても、胸の奥底に暗くわだかまる空洞のような感覚。
側にいても、こうして肌を重ねてさえも決して埋めることの出来ない穴。
人はそれを「孤独」と呼ぶ。
「……どうしてだろ……」
私と抱き合ったまま青島が呟く。
「なんだか、すごくせつないよ……」
その言葉に私の胸も締め付けられるように痛んだ。
「おかしいですよね。室井さんは今、こうして俺の腕の中にいるのに。こうやって強く抱いたら、とっても暖かいのに……」
そう言って青島は、息が止まるほどきつく私を抱きしめた。
私もそれに応える。
強く強く……。
体が溶け合ってひとつの生き物になれたら……
魂も溶け合ってあの流星の尾のように。
警察官であるという檻も男同士であるという禁忌も、何もかもすべて脱ぎ捨ててひとつになりたい。
どんなに激しく望んでも、けして叶えられることのない願いをぶつけ合うように、互いを抱く腕に力を込める。
私たちはどちらからともなく唇を重ねた。
そこから互いの魂を己が内に取り込まんとするかのごとく、貪るようにくちづける。
青島の優しく大きな手が私の背中を撫で、私の官能を煽る。
私の指もまた、それに応えて、青島の背筋を這い欲を引き出そうとする。
淋しい淋しい……。
まるで泣いているみたいに、金星が夜空を焦がす。
美しく孤独に輝くその星の淡い光の下、私たちは体の溶け合う疑似体験に酔う。
金星が燃えて消え、プラチナの太陽が昇るまでの僅かな瞬間。私たちはひとつの生き物になった。







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