子は鎹(かすがい)

〜スピンオフ〜

「残念だよ大作くん。私は君がとても好きだったのに」
GR本編で眩惑のセルバンテスはそう言った。
この台詞のせいで、多くのGRファンは「セルバンテスは子供好き」と思ったのではないだろうか。
しかし私はそうは思えなかった。何故なのかはわからない。とにかく「好きだった」というのは社交辞令だと感じたのだ。戦いの最中に社交辞令もどうかとは思うが(笑)
そのおかげさまで、我が社の社長は子供には何の興味もない、むしろ嫌いという設定になっている。
というか、社長は、世の中の全てに興味がない。アルベルト以外にはまったく食指を動かされないということになってしまった。
だから当然のごとく、愛するアルベルトの愛娘であっても、アルベルト以外なので、サニー・ザ・マジシャンのことも興味がない。むしろ憎んでさえいる。アルベルトの妻、一丈青扈三娘が懐妊したときはあんなに祝福したのにだ。
社長だとてまさかそうなるとは思っていなかった。自分で生んだわけではないにせよ、愛する者の娘なのだ。その子にだけは特別の感情を持てると思っていたのだ。
だがそうはならなかった。否、逆の意味で「特別の感情」を持ってしまうことになった。「憎しみ」である。
何故そんなことになってしまったのか?
それは、サニーとアルベルトが共通に持つ能力のせいである。
皆さんもよくご存じの通り、この二人は強力なテレパシーで繋がっている。それが、社長の勘に障るのだ。
我が社の社長は、本編同様、敵の精神に直接作用する心理攻撃が使えるが、他人の心を百パーセント読み取ることが出来るというわけではない。故に、最愛のアルベルトの心の裡も完璧に読み取ることが出来るわけではないのだ。知りたくてたまらないことは山のようにあるのに。
にもかかわらず、年端もいかない小娘が、肉親であるという理由だけで、アルベルトと繋がっている。どんなに遠く離れても固く結ばれ切れることがない。それがどうにも腹に据えかねるのだ。
ところが、サニーの方はさにあらず(駄洒落じゃないよ)。私の作品「かえるのおじ様」を読んでいただければご理解いただけると思うが、彼女は、おじ様が大好きなのだ。それが話をややこしくする。
子は親の鏡とは良く言ったもので、サニーは、アルベルトの心を、アルベルトでさえ気が付いていない奥底のものまでも、それはそれは見事に映し出す鏡なのだ。だからこそ彼女は、おじ様を愛してやまない。
そしてそれがどういうことなのか、社長もわかっているのだ。いやというほど。
それが故に、社長は彼女を憎んでいながらも冷たくすることが出来ない。
本当ならアルベルトと繋がっているなど、殺してしまいたいほどに忌々しいことなのに、繋がっているからこそ消すことが出来ない。アルベルトの心が読めない以上、自分を欠片でも良いから愛してくれているのかを確かめる手がかりは、サニーの鏡のみなのだから。
サニーに冷たくできないわけはそれだけではない。
サニーがアルベルトの心を映す鏡であるなら同様に、アルベルトもまた、サニーの心を映す鏡であるからだ。
憎しみのあまり、サニーに酷薄な行いをすれば、それはそのままアルベルトに伝わってしまう。彼女がおじ様憎しと感じれば、アルベルトからも嫌われてしまう危険性がついてまわるのだ。
もちろん、アルベルトはサニーと異なり、自分自身の信念を強く持った大人の男であるから、いかに繋がっていようとも、娘の感情ごときで、己の好悪の感情まで左右されてしまうほどではないだろう。
そのことは、頭の良い社長のことだ、理屈では充分理解している。しかし、惚れた弱みか感情面で「もしかして……」と思ってしまうのだ。
むろん、そんな手前勝手な理由ではなく冷たくしないわけはある。むしろそちらの方が大きな割合を占めるかもしれない。
それは、サニーが他でもない一丈青扈三娘の忘れ形見であるからだ。
社長は彼女をことあるごとに「ホルスタイン」呼ばわりするほど、忌々しく思っていた。アルベルトから紛うかたなく愛されているからだ。しかしそれでも、いや、そうだからこそ、社長は彼女に一目置いていたのだ。あの傍若無人な衝撃のアルベルトを落とした女なのだから。
その彼女が遺した子供。何故生まれてきたのかその理由を社長が誰よりも知っている子供。生まれてきた意味を果たせないまま遺された子供。そしてその意味を知らず愛されすくすくと育った子供。最愛の盟友にとって特別な意味を持つ子供。それが社長にとっても「特別」でないわけがない。ただ愛せないだけで。
というわけで、ことほどさようにサニーの存在は、社長にとって複雑極まりない。
「いつか殺してやろう」と物騒なことを思いつつも、実行することはかなわないのだから。
そこで社長は、その歪んだ感情を心の奥底に封印し、「子供好き」という仮面をかぶることにした。
「サニーを殺したい」などと誰にも悟られないように。
そして言うのだ。
「残念だよ大作くん。私は君がとても好きだったのに」と。




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