子は鎹(かすがい)


「やあ、アルベルト。どうしたんだい? その薔薇の花束は? あ、まさか、私へのプレゼントかい? いやあ、嬉しいなぁ(ハート)」
「阿呆か。誰が貴様なんぞに。……これは……あれへの祝いだ」
「『あれ』って……ああ、あのホルスタインか」
「人の妻をつかまえて牛呼ばわりするな(怒)」
「でも何の祝いだね? 今日は誕生日でも結婚記念日でもなかったよね」
「……できた……らしい……」
「え? 何が?」
「……子が出来たのだ!!」
「『こ』? 『子』って子供?」
「そうだ」
「えええええ〜!! 君の子供ぉ!?」
「当たり前だっ!! 貴様じゃあるまいし、あれの尻はそんなに軽くはないわ!!」
「いやだなぁ。私だって君一筋だよ〜(ハート)」
「……」
「そうか! なら、お祝いしなくちゃ!! 今日はパーティーだ〜!」
「!? ……喜んでくれる……のか?」
「当たり前じゃないか〜。君の子供なんだよ。私の子供みたいなもんじゃないかね。いやあ、めでたい。おめでとう!」
「その例えには些か引っかかるが、祝いの言葉はありがたく受け取っておく。パーティーはしないがな」
「え〜!? ちぇっ。騒げると思ったのに。ま、いいや。ホルスタインに『でかした』って伝えておいてくれたまえよ」
「だから! ワシの妻は牛ではない(怒)」


アルベルトに薔薇の花束を持たせたくて妄想したら、こんな小咄が出来た。それを盟友萌え友達にメールしたものを今回引用してみた。
このようにサニーは、周りに祝福されて生まれてきたのだと私は思っている。ゆえに彼女はあれだけ素直で良い子に育ったのだろう。

というわけで今回は、サニー・ザ・マジシャンの出自および、それを取り巻く人々について語りたいと思う。

サニー・ザ・マジシャンは、言うまでもなく、衝撃のアルベルトと一丈青扈三娘(いちじょうせいこさんじょう)との間に生まれた娘だ。
だが私はそこに一抹の疑問を抱いた。
衝撃のアルベルトと娘という図式に違和感を感じるのだ。
あのアルベルトが、子供が好きだとはとても思えない。なのに何故子供を作ろうと思ったのだろうか?
世の中には「できちゃった婚」というものがある。あるいはアルベルトと扈三娘もそれに当てはまるのかもしれない。そうは思ったが、アルベルトはBF団の十傑集である。「子供ができたら籍を入れなければならない」という世間の常識などどこ吹く風ではないのだろうか? いや、扈三娘を「妻」と言ってはいるが本当は「内縁の妻」だったのかもしれない。だとしたらサニーは「うっかりできちゃった娘」ということになる。
でもそうなってくると、子供がいるのが十傑集でアルベルト一人というのも不思議な話である。マスク・ザ・レッドや素晴らしきヒィッツカラルドなんか、ごろごろ子供がいそうな気がする。絶対やるとき避妊なんかしそうにないからだ。
避妊のことで考えると、アルベルトはそのあたりしっかりしているようにも思う。あの傍若無人な彼も、ことそういうことに関しては意外に道徳的な気がするのだ。
避妊の失敗というのもないことはないだろうが、失敗してしまうほど何回も扈三娘とやってない気もする。いや、べつに、セルバンテスとやりまくっているからとかそういうことではなく……(汗)
そんなことをいろいろ考えて行くと、結果、我が社のアルベルトはサニーを計画的に作ったということに落ち着いた。
計画的だったからこそ、「薔薇の花束で祝う」というシチュエーションが生まれるのだから。
では何故計画的に子供を作ったのか? という最初の疑問に戻ることになる。
唐突に801を否定するような意見を述べることになるが、我が社のアルベルトは、扈三娘を愛している。これは我が社に限らず、公式設定でも「理想の女は妻」となっているので問題はないと思っている。
ではセルバンテスの立場はどうなるのか? これに関しても我が社的には「アルベルトはセルバンテスを『盟友』として愛している」という設定なので問題はない。まあ、普通「ただの盟友」とはセックスなどしないものなのだが、そこは悪の秘密結社の人間で倫理観が一般人とはズレているととらえていただけるとありがたい。実際にはその倫理観のズレは、セルバンテスの地道な口説きによって徐々に成し遂げられたものでもあるのだろうが。
話を戻そう。
「アルベルトは扈三娘を愛している」ゆえに子供を作った。至極まっとうな帰結である。
が、その一言では片付けられない複雑な疑問があるから今回のテーマになっているのだ。
それはアルベルトはBF団の十傑集であるということ。
平のエージェントなら子供を何人作ろうが何の問題もないだろう。
いや、平でも何でもBF団のエージェントなら子供を作るのはためらうかもしれない。というか、平の方がよりためらいは大きいように思う。
彼らは「闘う者」なのだ。常に前線に置かれいつ果てるともしれない命の持ち主なのだ。そもそも「妻を持つ」ということ自体ためらわれるだろう。
にも関わらずアルベルトは扈三娘をめとった。そこにどんな事情があったのかは知るよしもない(「そこも設定したら?」というご意見もあろうが、今回はそこはご容赦いただきたい)のだが、「彼女を愛している」というのは大きなファクターであろう。
「妻を持つ」という障害を乗り越えたら後は「子供を作る」だ。
「闘う者」が妻をめとったら「子供を作る」のは自然な流れのように感じる。妻をめとった時点で「闘う者」は「守る者」に変わるからだ。
「子供を作ろう」と言ったのは、たぶんアルベルトの方だったのだと思っている。
アルベルトは常に前線に立ち、自分の命など省みない闘いを繰り広げている。本来なら守るべき者が居るのは煩わしいに違いない。それが証拠に我が社のアルベルトは、爵位も放棄し実家とは縁を切り独りになることを望んでいた。しかし愛する者が出来その者をめとった。自ら望んで「わずらわしいもの」を作ったのだ。だが望んだとはいえ煩わしいことには変わりない。それを軽減するために「子供を作ろう」と言ったのだと私は考えている。
そんな言い方をしたら、アルベルトがとんでもなく手前勝手に思えるかもしれない。けれどもアルベルトはアルベルトなりにわずかばかりの思いやりで「子供を作ろう」と言ったのだ。
その思いやりとは、そう遠くない未来に自分に置き去りにされ遺族になるであろう扈三娘が、BF団内で孤独になり孤立することを防ぐというものだ。
自分は居なくなろうとも、子供さえいれば、そしてそれが能力者の男児であれば、次期十傑集の母という地位が保証される。いいや、そんな格式張ったことではなく、愛する夫の子供がいれば、夫を亡くした哀しみも淋しさも癒されることだろう。
自分は生き方は変えられない。だから代わりを遺して逝こう。これがアルベルトなりの思いやりである。
ところが皮肉なことに生まれたのは女児で、最後まで残されたのはアルベルトの方だった(実際に最後まで残されたのはサニーなのだが)。
生まれたのが女児だったことはさほどの計算違いではなかった。十傑集が男性ばかりということから後を継ぐなら男児であるに越したことはない。が、能力が抜きんでていれば認められる世界だ。野望さえあればそれは女でも可能だろう。もっと野心があれば女であればこその地位、ビッグファイアの正妻という夢も叶えられる。
まあ、そこまで畏れ多いことは考えていないにしても、能力者であるということは、生まれた子の赤い目を見て確信できた。我が社のアルベルト家の設定では、彼の遠い先祖は魔女界を離反し人間と結ばれた大魔女王であり、何代目かに一人赤い目を持つ魔女ないしは魔法使いが生まれる。アルベルトもその一人だったが、残念ながら彼には「無から有を生み出す」魔法使いの能力はなく、代わりに一つだけ強力な魔術「衝撃波」が備わった、ということになっている。だから自分が半端にしか受け継がなかった力が、次の世代では完全に開花するのではないかと踏んでいたのだ。そしてそれはアルベルトの思惑通りになった。
なのに、よもや、誰よりも先に扈三娘が逝ってしまうとは……。
そうして、これらの事柄、アルベルトの想いを、彼の唯一無二の盟友、眩惑のセルバンテスは誰よりも良く理解していた。
だから、彼女が逝ったとき、ホルスタイン呼ばわりするほど毛嫌いしていたにも関わらず、アルベルトよりも哀しんだ。
「なんで……なんで扈三娘なんだよ! 死ぬのは私たちの方がずっと先のはずじゃないか!? それなのに先に逝くなんて……。これじゃ、勝ち逃げじゃないか。最期まで底意地の悪い女だ」と。
セルバンテスと扈三娘には一筋縄では言い切れぬ確執があったが、それでもお互い認め合ってはいたのだ。
ゆえに、前述の小咄の通り、セルバンテスも懐妊の報に祝福を贈ったのである。
だがこの後(のち)手放しでは喜べない事情が出来てくるのだが、それはまた別の機会にする。
以上のような事情でサニー・ザ・マジシャンは生まれた。両親に望まれて。周りに祝福されて。些か哀しい事情ではあるが。
だから最後に「闘う者」とその家族のささやかな幸せの小咄で閉めたいと思う。


「はぁはぁはぁ……(深呼吸。息を整え)ゴホン……(扉を開け)こ、扈三娘……生まれたらしいな」
「アルベルト様……来てくださいましたのね」
「う、うむ。一応、我が子の誕生だからな。……それで、男か?」
「いいえ。女の子ですわ」
「女? そうか……女だったか……」
「あら? がっかりなさってるの? 貴方に似てとても元気で可愛らしい女の子ですのに……」
「おんぎゃー! おんぎゃー!!」
「ね。元気でしょう? 泣き声もこんなに立派」
「……う、うむ」
「抱いてやって下さいましな」
「え? だ、抱くのか? ワシが?」
「ええ。他にどなたがいらっしゃいますの? 貴方は父親ですのよ。誰よりも一番に抱く権利がありますわ」
「う、うむ……そ、そうだな……」
「ええ」
「……くにゃくにゃだ……」
「まだ首が据わってませんから」
「……な、なんだか怖いな……(ぼそり)」
「大丈夫です。優しく抱いて下されば壊れたりしませんわ。案外子供って頑丈ですのよ。私が産んだ子ですもの」
「そうだな……こ、こうか?」
「ええ。お上手」
「おおっ! 泣き止んだ」
「まあ。良い子だこと。きっとお父様がわかるのね」
「だぁ。だぁ」
「……知らなかった……その……赤ん坊とはずいぶんと……愛らしいものなのだな……泣き叫ぶし暴れるし、煩わしいだけだと思っていたが……」
「うふふ……早くも親バカですか? それは私も負けていませんけど。だってこんなに可愛い赤ちゃん見たことありませんもの」
「あ……瞳が……」
「ええ。赤いんですのよ。だから貴方そっくりと申し上げたでしょう」
「そうか……この目を受け継いだか……」
「この子はきっととても素晴らしい魔女になりますわ。だって貴方の──」
「──お前の──」
「子ですもの」「子だからな」
「「!!」」
「うふふふふ……」「ははははは……」
「元気に育つのだぞ。我が娘よ」




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