「ねぇ、アルベルトってパンツ何枚くらい持ってんの」 …あまりのことに、琥珀色の液体が鼻から漏れるかと思った。 口を押さえて、口の中に残っているコーヒーを何とか飲み干す。 自分の顔が、妙な顔になっているのは自分でもよく分かる。 しかしだな。 「パ、パン…」 「パンツ。…通じない?Unterhosen、Underpants、Calzoncillos、seluar katuk、Shitagi」 他国言語で繰り返そうと意味はパンツだろうが!!!! 連呼するな連呼を! 「?持ってないの?もしかして、穿かない派?それってズボンに生で触れるわけだから、すんごい馬鹿っぽくない?」 生!!! 「だってさ、アルベルトのズボンって私と同じタイプだろう、スーツってことは、結構スカスカしてない?ッてことは、中でさァ」 「やめんか!」 本当に、本当に、こいつは当たり前の顔して、本当に普通に疑問に思ったから言っているだけって顔をして。 「ゆれない?」 ゴン。 セルバンテスの言葉が形を成して、儂の額にぶち当たる。 目から火花が飛び散った儂を前にして、クッキーなどポソポソとつまみながら、角砂糖4個を投入したエスプレッソを口にして。 「甘」 そりゃ、甘いわい。 「ンで、パンツは?」 「何故パンツにこだわる」 んー、と、首を傾げて。 デミタスカップを、テーブルの上にコツンと置く。 受け皿は無視して。 「生活様式が出るだろう?隠れている部分だから、知りたくなるってのもあるしね、後は、人となりが出る。面白いものだよ、パンツも」 … なるほど 「後はほんのちょっとの嫌がらせ気分が混じれば、質問にもなろう物さ」 「…ふざけるのも大概にしろ」 ちょい、とゴーグルを頭の方にずらして。 ゆっくりを瞬きをしてみせる。 「ふざけてない。君のことだから余計に知りたくなる。」 「人を探って何が面白い」 「んじゃ、ためにし私の持っている数を教えてあげようか。多分キミは私に質問をするよ」 …こいつの頭の中身は、本当にどうなっているのか、悩むことがある。 面白いといえば面白い。 しかし、人に土足で踏み込むようなことも平気でする。 しかも、当然のような顔をしてそれをされるから、怒る気にもならん。 人にやけに興味を持つのは、何故なのだろうか。 儂に興味を持つのは、何故なのだろうか。 興味を持つということの裏返しには、何があるのだろうか。 …考えても見たことがなかった。 「…よし、言ってみろ」 「うんとね、多分、200枚くらい」 「!?な、何でそんなに持っているんだ!」 「ほら質問した」 「!」 …確かに、 確かに、質問した。 当然だ、それは誰だって疑問に思うだろう! 200枚だぞ、200枚。一年とまでは行かないまでも、洗濯も何もせずに、一年事足りる数だぞ。 「うーん。でも自分でも分からないかな。何で200枚あるんだろう。気がついたら、それくらいの数になっていた。以上、私の答え。」 「それでは答えにならん」 「…しかしねぇ、考えても分からないのだよ」 「ならば儂が考える!」 真ん丸い目で。 儂を見て。 セルバンテスが、笑いかけて、やめた。 「それは面白い。託してみようかな」 「うむ。」 よし。 暴いてやるぞ。この問題を。 200枚あるということはだ。 必要だったからか?それとも、単に、パンツを衝動買いするのがすきなのか。 いや、此処でまた疑問がわく。 「お前は自分で買いに行くのか?」 「パンツ?」 「そうだ」 「んー。買いに行かせているよ。」 「お前が、買いにいけ、と言うのだな?」 「うんそう、買ってきて、って頼むわけだ」 なるほど。 ならば、欲しいという気持ちがあって、手にしていることになるわけだ。 では、何故そんなに欲しがるのだ? パンツが欲しいということは。 …その前に、パンツの定義について考えねばならん。 パンツが、一体、コイツにとってどういう位置にあるのか。 「お前にとってパンツとは?」 「気持ちいいもの」 気持ちいいもの!?パンツがか! そうか、ならば、気持ちがいいから、沢山欲しくなるのか? パンツも、物によって本当に感触も、形も、フィット感もさまざまであろう。 ならば、それを色々な感触や形やフィット感を味わいたいから、必然的に量も増えるのではないか? 今日は、一体どんなパンツなんだ? 何故、それをセレクトしたのだ? 「セルバンテス、パンツを見せろ」 「ええええ?」 「今日穿いてるヤツだ。」 「え、え、え?な、な、なんで?」 「見せろ!儂の思考を妨げるな!」 「…」 手に持っていたクッキーをカップの受け皿において、(なるほど、そう使うつもりでカップは別に置いていたのか 椅子をゴリゴリと体で押し下げて、立ち上がる。 ベルトをはずして。 ボタンをはずして、ちょっと引っ張って見せる。 近くによって、それを覗き込んだ。 …顎に指の甲を当てて、考える。 …はて、コレは、どういったパンツか。 「ねぇ、アル…」 ぐぐ、と、中を覗き込んで。 ええい、よく見えん! 「ひゃあ!!」 ズボンを引き下げて。 … 「ちょ、ちょっとアルベルト!!?」 「…ん?」 「何、するのさ、私が馬鹿みたいじゃないか!」 クフィーヤを掴んで、慌てて前を隠して。 儂が確認する前に、さっさとズボンを直してしまう。 …うむぅ。確認するのも難しいものだな。 と、そもそも、儂も恥をかかせてどうする。 そうだな、もうちょっと、スマートに、見る手段を講じたほうがよいというわけか。 しかし、パンツの話題を振っておいて、自分のは隠すって言うのは、また、フシギなものだな。 ああ、中身があるからか。 いや、でもなくても、見せるのは普通、抵抗があるものだろう。 パンツとは、神秘なるか。 よくチラリズムと言う言葉があるが、あれは、隠しているものが見えてしまうから、そんな名称まで付けられるようなものになったわけだ。 「よし分かった。」 「え?わかったのかい?」 着衣をさっさと元に戻して、元通りになったセルバンテスが、椅子を元に戻しながら儂を見上げる。 「行為に及ぶことにする」 「は?」 「行為だ。」 「行為って…セックス?」 「その名称はあまり好かん。行為だ。ベッドに移れセルバンテス」 なんだか戸惑った顔を見せるセルバンテスを、ベッドまで引きずって。 とにかく、今日のお前のそれを見なければ、思考も深まらんと言うわけだ。 くそう、わからんと言うのは、本当にイライラする。 ベッドに押し倒して、ベルトに手をかけて引き抜いた。 「や、と、突然脱がすつもりかい!?」 「…うぬ」 そうだな。結果がパンツであれ、理由は行為だ。 ならば。 儂の行動を、伺っているその瞳に。 唇を近づけると、其処が閉じるから。 目蓋に、舌を這わせた。 指でクフィーヤを押し上げて、こめかみまで舐めあげ、髪を食む。 「んっ」 胸に刺激を感じて、目で確認すると、セルバンテスの指が、儂の胸の突起を爪先で摘み上げる瞬間だった。 「っ!!!」 詰まった息を、唇でふさがれる。 寸前で、一瞬だけ感じた柔らかい息。 …まだ、その息が乱れていないことに気付いて。 キスをしたまま、耳の輪郭に指を這わせた。 軽く詰まったような息を喉の奥に感じる。 軟骨のラインが、この形を作っている。 コレが、セルバンテスの耳の輪郭。 確かめるように、なぞる。 そして、コレが内側の輪郭。 指先を、じんわりと押す薄い肉の形。 「っは、あ」 息が漏れて。 自分の息も、相手の息も、熱くなっていくのを知って 自分がどうなっているのかを知らせるためだけに、腰を、腰に軽く押し付ける。 そうすると、セルバンテスの身体がどうなっているのかが、手にとるように分かる。 硬く、熱い欲の塊。 どうだ?そろそろ、そこで楽しんでみないか。 お前の刺激が欲しい。 お前の、儂の刺激が欲しいだろう。 捻じ込んで、肉の絡む感触を全身で味わう。 セルバンテスのそこに触れ、熱くたぎる渦を放出させるために、しつこいくらいに攻め立てた。 さぁ、頂点へ、行かせてくれ、その体と共に…。 葉巻に火をつけた。 煙を深く吸って、香りを味わう。 体を満たした後と言うのは、心地よい痺れと疲れが、体に宿る。 戦いの後のように。 … ん? …パンツ! 夢中になって忘れていた! セルバンテスは、と言うと、 元の様に元の格好に戻って、テーブルについてまたクッキーをポソポソと。 うううううう、 し、しまった。 かなりしまった。 これでは、問題が解けん!!! 「んでさ、そろそろ聞いてもイ?」 「…あ、ああ?な、なんだ」 「君、パンツ何枚持ってんの?」 ああ。 そういえば、そんな話だったな。 「…ウム…そうだな、10枚くらいか」 「少ないねぇ」 「そうだな」 「でもキミのは清潔だね、と言うことはキミは潔癖症なんだね」 「え?」 何故、そうなる? 「沢山持っている人間はね、それが風化することを願うのだよ。一つ一つはすでに過去、 捨てればいいのに未練があるから捨てられない。ま、私の場合は単なる横着だがね」 「…」 「キミの場合は、恐らくは過去にこだわらない、横着でもない。それか、よほどの面倒くさがり。 でも面倒くさがりの場合は、それを綺麗にしておいてくれる、第3者が必要になる、 でも今の君にはその第3者はいない。と言うことは。キミは相当自分に厳しい」 クッキーを食べ終わったセルバンテスが、 カップを受け皿の上におく。 「違う?」 パズルのピースを全部揃えて。 儂に誇らしげに見せる。 して。やられた。 それが、やけに楽しく感じたから、儂はその場に行って、もう一度コーヒーを飲むことにしよう。 興味と言うものに興味が沸く、と、言うこともあるものだな… |
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