私は迷っていた。今までの人生で、少なくとも警察官になってからは、迷うことなどなかった。
いや、迷うことは許されなかったのだ。
なのに、あいつと出会ってからは、迷ってばかりいる。
所轄の一介の平刑事などに心を煩わせるなどバカバカしいと他人は言う。
しかし、私にはそうは思えない。
あいつはいつも、まるで夢のような理想と正論で私を試す。
私の正義があいつの真理に適うものかと問うてくる。
真っ直ぐな瞳で。
人を踏みにじり栄華を掴もうとする汚れた私には、眩しすぎる輝きで。
そしてあいつは言った。
「わかる。この人はわかるよ」
こともなげに。
まるでそれが当たり前のことだとでもいうように。
私は……私だけは他の刑事達とは違うとでもいうように。


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