室井慎次の場合


青島んちの近くに、新しくコンビニが出来た。
確かサークルKだったように思う。いや、サンクスだったか? ローソンでないことは確かだ。
まあ、店の名前はどうでも良いんだ。
言いたいのはそこで買ったプリンについてだ。
別にプリンには問題はない。賞味期限までは四日もあったし、値段も良心的だった。
だが。
なんでスプーンがついてくるんだ!?
しかも三つも。
「プリン三つ買ったんだから、スプーン三本で合ってるじゃないですか」と青島は言うが、何言ってるんだ!?
数が合っていればいいというものじゃないだろう。
たしかに新木場は大都会とは言えない。原宿や竹下通りほど若者が多いわけでもない。
しかし、埋め立て地の上とはいうものの、一応は東京二十三区のうちではないか。
レジ係の店員も、二十代前半の女性だった。服装だって、今時の若者らしい、キャミソールにフレアのミニスカート、厚底ブーツという出で立ちだった。そういえば顔も、ちょっと山姥入っていたか。
なのに。
プリンにスプーンか!?
はっ!! もしかして……私を田舎者と見抜いていたのか!?
青島といるときの私は、そんなにも気が抜けているのだろうか?
一目見て地方出身者とわかるほどに。
いや、そんなはずはない。
いくら青島と一緒だったからとはいえ、仕事帰りだ。スーツ姿だったし、それほど油断していたつもりはない。
うーむ、判らない。
何故スプーンだったんだろう。
……そうか! 彼女が地方出身なのか。
ナウなヤングの格好をしているからといって、東京者とは限らない。
三つ揃いで一分の隙なく鎧っていても、私が秋田の田舎者なように、きっと彼女も上京して間がないのだろう。だからこそ、年甲斐もないこれ見よがしな着こなしだったのだ。
なら、クレームをつけるのは可哀想だな。
他意があってやったことじゃない。プリンはスプーンでも食べられる。
彼女が自然に自分で気がつくまでそっとしておいてやろう。
東京に住んでいればいつか必ず気がつくはずだ。
プリンはストローがトレンドだということに。

青島くんにも訊いてみる


<<戻る

inserted by FC2 system